Ⅱ. 無常観と修行の覚悟
from 詩情と密教の手引き_嵯峨
#秀歌30 #ガイドライン
Ⅱ. 無常観と修行の覚悟
人生の儚さや修行の困難さを乗り越え、自己を確立する教えです。
歌番号
詩情(歌の情景)
密教の教えとの関連(法話の核心)
一切皆苦
露滴070:知らいでか 老いも若きも さても死ぬ 迷いても死ぬ 悟りても死ぬ
老いや悟りの有無に関わらず、全ての人が死ぬという厳然たる事実。
一切皆苦(いっさいかいく): 生老病死の苦は逃れられないという仏教の根本原理。この無常を直視することが修行の出発点となる。
諸行無常
露滴076:夏の日はまだ暑けれど暮れ行けば 影の長さに 秋ぞ忍びぬ
夕暮れ時、影が伸びることで秋の訪れを静かに感じ取る瞬間。
諸行無常(しょぎょうむじょう):命や時の変化は突然ではなく、影のように微細な変化の中に静かに潜んでいる。日常の中に真理を見出す観照の智慧。
即身成仏
露滴078:さらぬだに 成らで過ぎゆく浮世かな 為してみせばや この身のままに
儚いこの浮世で、遠い悟りを待たず「この身のまま」で成道しようとする強い意志。
即身成仏(そくしんじょうぶつ): 煩悩を抱えた「この身」こそ、仏と一体になる最高の器であるという密教の核心。
凡夫入仏
宝滴076:この世をば 遠足と思う 煩悩は 如来弁当の包み紙かな
煩悩を「汚れた捨てるべきもの」とするのではなく、如来(仏)が私たちに与えてくださった「弁当の包み紙」という親しみやすい比喩で表現しています。
凡夫入仏:煩悩は否定せず、役割を終えたらそっと捨てるだけで良いという、凡夫を優しく肯定し受容する「柔軟な教え」を象徴しています。
即今の覚悟
新滴084:刹那ゆえ輝く命を知りもせで 明日(あした)明後日(あさて)を憂う愚かさ
命は「刹那(一瞬)」の連続であり、今こそが最も輝く時であるという無常の真理を喝破しています。未来を憂いて「今」を疎かにする凡夫の愚かさを指摘し、「即今(そくこん)の覚悟」を促す強い修行観が表現されています。
即今(そくこん)の覚悟:「今この瞬間」が最も尊いと知り、未来を憂うのではなく今を精一杯生きる修行者の心構え。